MCカートリッジ用 昇圧トランスの製作




2011.5現在 すこしずつ執筆中。


いくつかのトランスを製作してきてだいぶノウハウが蓄積できたので
レコード再生用のMCトランスを自作してみることにしました。

MCカートリッジ用の昇圧トランスは扱う信号レベルがミリボルト以下であること。
しかも伝送しにくい低域信号がRIAAカーブのおかげでさらに小さなレベルになっています。
また、二次側のインピーダンスが高くなることにより高域のレベル低下を招きます。

性能の良いMCトランスを製作するためには、トランスの前後に接続されるMCカートリッジや
フォノイコライザーの特性をきちんと把握し、必要に応じたバランスの良い性能のトランスを
設計することが大切です。

今回、昇圧トランスを製作するにあたり以下に重点を置き設計を行いました。

・低域から高域まで十分に周波数特性が伸びること。
・伝送が難しい微小な低域信号もきちんと捉えること。
・十分な昇圧比、20dB以上の利得が得られること。
・MCカートリッジを選ばず十分な性能が確保できること。


まず、昇圧比(巻線比)について。
昇圧比についてはなるべく大きいほうが望ましく、より出力電圧が高くなります。
しかしながら比が高いほど設計の難易度が上がり、高域や低域のレベル低下につながります。
また、カートリッジのインピーダンスとイコライザーの負荷インピーダンスとの比を超えた昇圧は
行えません。
市販品のスペックを確認したところ1:10もあれば実用となるようです。


カートリッジのインピーダンスについて
MCカートリッジのインピーダンスは数Ωから数十Ωの範囲にあるようです。
昇圧比に余裕をもたせ、トランスに対してカートリッジのインピーダンスを十分に低くしたほうが
周波数特性が伸び、微小な低域信号もよく拾います。
カートリッジでインピーダンスが高い部類にあるのがDENON DL-103で40Ωとなっていますので、
トランス側としてはこの値より十分に高い値で受けられるように設計します。


上記2点をふまえてトランスの公称値を算出します。
トランスの一次側に十分な余裕をもたせるため、二次側はフォノアンプの入力インピーダンス
である47KΩに設定しました。
これで一次側のインピーダンスを40Ωに設定した場合、巻線比は1:34ととても大きくできますが、
前述の理由から吟味した結果、1:20と設定することにしました。
この場合、一次側のインピーダンスは110Ωとなり、DL-103の40Ωからみても大きな値となります。

これらの算出した値および使用レベルなどの条件をもとに染谷電子さんと打ち合わせの結果、
完成したのがこのトランス(型番:MC-71)となります。
トランス内部の具体的な設計、コア材料、コア種類、サイズ、一次二次の巻数などの詳細については後々
情報が入手できたら掲載したいと思います。


■各部の写真 ケーシングについて


今回の心臓部である特注トランス。微小信号のためパーマロイケースに収められています。
ケースのサイズはφ21mm×23mm




内部結線は基本的に入出力の接続くらいです。
アース結線は好みによりますがRCA端子のGNDおよび金属パーツ全てを結んでいます。



ケースはタカチのHEN110306Bです。前後のネジは六角タイプに交換しました。



豪華にスーパートロンのRCAジャックを使ってみました。




ゴムブッシングを使用してトランス部をフローティングし外部からの振動を和らげる工夫をした。
(気休めです)






■トランス仕様(メーカー公表データ)

画像クリックで拡大

記載以外の情報
一次側巻線362ターン、二次側7472ターン
使用コア材 PCパーマロイ78% L型コア(だったはず)

二次側にマッチングをとる形で設計しているため、一次側巻線の直流抵抗が26Ωと
高くなっていますが、必要分の昇圧比を確保し電力伝送ではなく電圧伝送に近い
形をとっているため巻線抵抗による悪影響が出なくなっています。



■測定データ


周波数特性

信号源インピーダンス10Ω、負荷インピーダンス47KΩ、一次側信号レベル-60dBu時

20Hzで-0.67dB、40KHzで若干ディップがあるものの100KHzで-3dBという値は優秀ではないでしょうか。




一次側インピーダンスが40Ωまで高くなった場合の周波数特性。
10Ω時に比べ低域、高域ともに低下しているが十分な性能が確保できている。





低域の伝送特性
20Hzのサイン波を発振器出力で0dBuにした時の二次側のレベルを0dBrとし
発振器出力を-70dBuまで下げていった場合の入力レベル対出力レベルを観測した。
微小信号であってもきちんと伝送していることが確認できる。
信号源インピーダンス10Ω、負荷インピーダンス47KΩ






信号源インピーダンスを40Ωにした場合でも特に性能低下はみられない。
(0dBu近辺で飽和しているが、実際にこのような大きい信号が印可されることはない)








歪率(THD+N)

信号レベルが低くノイズフロアの影響をうけるため発振器出力を若干高め(二次側で-10dBu)
にして測定しています。信号源インピーダンス10Ω、負荷インピーダンス47KΩ





昇圧比(実測値)
トランスを挿入することでインピーダンスが変わるため何をもって昇圧比とするかは難しいところですが、
MCカートリッジをトランスを使用せずフォノアンプへ直結した場合を基準として測定してみました。

信号源インピーダンス10Ω、負荷インピーダンス47KΩとした時に
一次側信号レベル-62dBu、二次側信号レベル-37.5dBuであった。
トランスを外して直結した場合、信号レベルは-61.5dBuになった。
よって昇圧トランスを用いたことで24dB(=16倍)のレベル増加が得られたことになる。


※参考情報
MCトランスの出力側はインピーダンスが高いため配線による高域の低下に注意する必要があります。
内部配線は極力短くし、フォノアンプへ接続するRCAケーブルも低容量のハイインピーダンス対応の
ものを使用しましょう。今回はさらにインピーダンスの高いギター用としても使われているケーブルである
BELDEN 9394を用いて50cmのケーブルを自作しました。


※今回設計・制作したMCトランスは良い性能を得ることができましたので、
興味のある方はぜひ製作してみてください。染谷電子さんには今回の設計情報は広く公開して構わないと
伝えてありますので「MC-71」といえば単価5000円くらいで作ってもらえると思います。



※2012.8追記
仙台のtomさまよりこのMCトランスを製作されたとのことでレポートが届きましたのでご紹介します。












tomさまは昨年の震災で被害をうけたLPレコードを引き取り、洗浄したりビニールを差し替えたりと
復活させたことをきっかけに、自宅のレコードプレーヤも修理。あらためてLPの音に関心を持ち、
MCカートリッジであるDL-103を入手。そこで昇圧トランスが必要となり自作をしたものの、ハムノイズ
の発生に困っていたところ、私のサイトにたどり着いてこのトランスに興味を持ったそうです。
ソフトンさんのトランスとどちらにするか悩んだそうですが、嬉しいことにこちらを採用してくださいました。
音質については好みに合うかとても心配していましたが、 ヘッドアンプを使用した場合、音がクリアー過ぎ
て疲れる。トランス式は聴きやすくて良い。ということで、トランスの特徴がうまく生きているようです。
鋭い聴覚をお持ちだという奥様からも「音は非常に優秀」という評価だったとのことで、こちらも安心しました。

ケーシングについて私は小さなケースに詰め込むのが好きなので製作例も寸法に余裕がなく大変だっ
たかと思いますが、綺麗に加工され収まっていてびっくりしました。アースラグの部分を左右に分けたの
がいい感じです。

tomさまレポートありがとうございました。どうぞ末永く活用してください。



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