サンスイ ST-71 600Ω:600Ωトランスのf特とか歪とか





おなじみSANSUIブランドのトランスを使っていろいろ測ってみた。
パーマロイコアの小型トランスの傾向として参考になるでしょう。





まずは一般的な周波数特性



サンスイのカタログに載っている値とほぼ一緒であることが確認できた。



なお、ソースのインピーダンス(Rs)および負荷インピーダンス(Rl)がともに規定値の600Ωのときの周波数特性グラフで、
信号レベル(Vosc)は0dBu (=0.775V) 時に出力レベル(V2)を測定している。1kHzでの値を0dBrとした。





特に記載のない場合、RsおよびRlは600Ω、Voscは0dBuである。





次にトランスの一次側、二次側それぞれに掛かっている電圧をしらべてみた。

発振器出力は0dBuなので、トランスが理想である場合、二次側の電圧V2は-6dBuを指示するはずである。
V2の1kHz時の値は約-7dBなので1dB程度の伝送ロスがある。
一次側の電圧は高域で上昇する傾向にある。発振器側からトランスをみた時に高域でインピーダンスが上昇し
伝送できていないのがわかる。低域はインピーダンスは低いが二次側に伝達されずロスとなっているようだ。





トランスの前後に接続される回路のインピーダンスが規定値である600Ω以外となった場合の特性



ソースのインピーダンスが低いほうが低域の特性は良いようだ。
負荷インピーダンスが規定値より高いと高域が上昇する傾向にある。






続いて、600Ω以外のインピーダンス同士で1:1のトランスとして使用した場合


規定インピーダンスより低いインピーダンスで使用すると低域特性は良くなるが高域低下がみられる。
高いインピーダンスの場合は低域が低下し、中域から高域にかけて上昇する傾向がある。






歪について


トランスに印加される電圧が高くなると低域に波形歪が生じる。
信号レベルを変えながら、周波数対歪率のグラフを描いてみた。
Rsがあるため、実際にトランスに印加されている電圧は記載値の-6dB程である。

もともと周波数が低くなるほど歪が増えていく傾向にあるが、信号レベルが上がっていくに伴い
コアの飽和領域に達することで一気に歪成分が増加する。
0dBuを超える信号レベルで使用する際は、100Hz以下の成分に注意する必要がある。



各周波数ごとに、信号レベル対歪率で描いてみたグラフ

どうやら20Hz,+5dBuあたりが危険ラインのようだ。






ウェイティング無しだと妙に数値が悪く見えてしまうので、一応Aウェイティングでも測っておいた。


0dBu時、1kHzで0.03%であれば、まあまあな値ではなかろうか。







20Hz歪発生時の波形




歪発生時のスペクトル分布(20Hz +10dBu時)








トランスは入力レベルが低い場合、低域の信号を伝えにくくなる現象があるということなので
各レベルによって周波数特性がどのようにかわるか調べてみた。


0dBu時にトランス一次側に掛かっている電圧レベルは約390mV。
-20dBuでは1/10の約39mVで、-40dBuでは3.9mV、-60dBuでは390μVとなる。
+20dBuにて低域が極端に落ちているのはコアの飽和によるものである。




周波数20Hzの時、入力レベル対出力レベルの直線性をみるためグラフを描いてみた。

0dBuを超えると飽和領域に突入し始め、それ以下ではレベルが下がるごとにほぼ同じ割合で伝送ロスが増えていくようである。





■後日、微小レベルでの低域の伝送ロスについてたまたま気づいたことがあったので、さらに調べてみました。



ちょっとした発見です。
一次側のソースインピーダンスが規定値の600Ωを下回った場合、例えば40Ωまで下がった場合は
音声レベルが微小域に下がってもきちんと入力に比例したレベルで伝送できていることが判りました。
また、ソースインピーダンスが600Ωであっても二次側の負荷が軽くなることでも同様の効果がありました。

※0dBrは600-600測定の際、発振器出力0dBu時の二次側の出力レベル(300.7mV)を基準としたため、
それ以外の接続条件での測定値は負荷が軽い分だけ全体のレベルが上昇しています。




※2012.5.20追記

トランスでマッチングをとらず電圧伝送として使った場合、ソースのインピーダンスが規定値より低いほど
歪率の値が良くなることについて、データをとってみました。

発振器出力は歪率の最良値近辺で余裕をもった-6dBuに設定して固定。
発振器の出力インピーダンスを40Ω、150Ω、そして規定値の600Ωと切り替えて
各周波数ごとの歪率(THD+N)を測定。


ご覧のようにソースのインピーダンスが高くなるほど、トランス自体に印加される信号レベルは低く
なるにもかかわらず、歪率は上昇する傾向を確認できた。

ピンポイントの周波数での数値は

100Hz
ソース40Ω時0.19%
ソース150Ω時0.37%
ソース600Ω時0.79%

1kHz
ソース40Ω時0.01%
ソース150Ω時0.02%
ソース600Ω時0.04%


ちなみにトランス二次側(600Ω終端)での1kHzでのレベルは以下の通りでした。

ソース40Ω時-8dBu
ソース150Ω時-9.2dBu
ソース600Ω時-13dBu



さて、ここで100Hzの歪に注目してさらに調べてみます。

ソースのインピーダンスを40Ωおよび600Ω、負荷インピーダンスを100kΩ、10kΩ、600Ωと切り替えつつ、歪率と二次側のレベルを測定しました。発振器出力は-6dBuです。

ソースインピーダンス 負荷インピーダンス THD+N 出力レベル
40Ω 100kΩ 0.21% -6.2dBu
40Ω 10kΩ 0.21% -6.4dBu
40Ω 600Ω 0.20% -8.1dBu
600Ω 100kΩ 1.42% -7.8dBu
600Ω 10kΩ 1.40% -8.3dBu
600Ω 600Ω 0.83% -13.7dBu

ってな具合で、概ね歪率は負荷インピーダンスに影響せず、ソースインピーダンスによるといえる結果となりました。
しかしながら、600:600で整合をとった時のみ、なぜか0.8%という異なった値が出ています。
ひょっとしてコアにかかる電圧が低くなったためかと思い、発振器出力を0dBuに上げ、二次側のレベルが-7.8dBuになった状態で再度歪率を測定しましたが、0.73%という値となったため、電圧レベルが原因ではなさそうです。

次に、負荷抵抗をさらに重くし、300Ωにて値をとってみました。

ソースインピーダンス 負荷インピーダンス THD+N 出力レベル
40Ω 300Ω 0.18% -9.6dBu
600Ω 300Ω 0.58% -17dBu

いずれも負荷600Ωの時よりさらに歪率が良くなる結果となりました。
ちなみに600Ω送出時のレベルを10dB上げ、出力レベルが-7dBuの時のTHD+Nは0.5%でした。

というわけで、ソースインピーダンスの変化による歪率への影響ほどではないものの、負荷インピーダンスも低ければ低いほど歪率が改善されると考えられると思います。
おそらく鉄損に非線形性があって、負荷はこれと並列にぶら下がりますので、負荷が小さいほど鉄損の非線形性の影響を受けにくくなる、といった感じでしょうか??



■コアの無い場合のトランスの動作



トランスのコアが無い空芯コイルの状態でも高域を伝送するそうなので、それについて測ってみました。






信号源インピーダンス40Ω、負荷オープンです。実線は通常のコア有り状態、点線がコアを取り去った
状態での伝送特性です。

負荷が軽い時に高域が上昇してしまう現象はコアを経由せず直接結合しているせいということなのでしょうか。
当初、容量結合かと思いましたが一次二次間の容量は数十pFとほとんど無いみたいなので、これは電磁的結合
によるものなのでしょう。






■二次側の負荷を変えたときにトランスの一次側からみたインピーダンス

二次側ショートからオープンまで切り替えつつ、一次側からインピーダンスがいくつにみえるのか
調べてみました。オシレータ出力は200mV 600Ωです。



1kHzでの値はShort側から102Ω、392Ω、664Ω、1170Ω、5100Ω、10.3kΩです。






■トランスでの信号伝送において、信号レベルが高くなった時に飽和して波形歪が発生することが
判明している。なお信号周波数が低いほど、飽和し始める信号レベルは低い。
そこで、信号周波数を変化させ、同じ波形歪率(THD+N)になる信号レベルを記録してグラフを描いて
みた。





測定回路においては、送り出しインピーダンスが高いほど、また負荷インピーダンスが高いほど
歪が発生しやすいため、歪が発生しやすい状態で測定を行った。
送り出しインピーダンス600Ω、負荷はオープンに近い状態(100kΩ以上)とした。

同じ歪率で結んだグラフは、おおむね7dB/oct.で直線になっている。
ラインの下端は、歪率が規定の値まで落ちず、測定ができなかったものである。
例えば、100Hzでは歪率1%を下回ることができなかった。

このグラフを参考にし、伝送する下限周波数と、許容される波形歪率を検討すると良いだろう。

一般的に、飽和して歪が発生した場合は信号レベルも低下するので、周波数特性が美しく伸びて
いる範囲で使用すれば、歪の少ない良好な伝送ができている状態だといえるだろう。



■600Ω:600Ωで整合をとった状態での信号レベル、周波数、歪の関係


信号周波数が高いほど歪の発生は少なくなり、飽和レベルに達しない限りはおおむね平坦な
特性になっている。
高域の微小レベル域でTHD+Nが高いのは、測定系の残留ノイズのものと考えられる。





■低域のレベル飽和での歪発生について、同時に存在する高域周波数成分が影響を与えるか


トランスで音声信号を伝送する場合、サイン波での測定と違って様々な周波数成分が存在する。
コアに対して飽和をさせにくい、比較的高い周波数成分が存在した場合に、この信号成分が低域の
飽和に影響を与えるのかどうかを確認する。


20Hzのサイン波信号をトランスに印加して、飽和して歪が発生し始めた約1.2Vrmsの信号レベルに
設定した。
つぎに、1kHz以下を鋭くカットしたホワイトノイズ信号を作成。これを同じく1.2Vrmsに設定。
20Hzサイン波だけの場合と、ノイズ成分を加えた場合とで波形の歪具合(飽和具合)が変化するか
どうかをチェックした。


スペクトラム波形   黄色:ノイズ有り 白色:サイン波のみ

画像クリックで拡大




信号波形  上:サイン波のみ 下:ノイズ有り  波形途中より1kHz LPF処理あり





上記の波形より、1kHz以上の信号成分は、20Hzサイン波信号の歪に対して特に影響を与
えていないことが確認できた。
低域の過大レベルでの波形歪については、低域成分にのみ配慮すれば良いことがわかった。




■サイン波信号で飽和するレベルと、実際の音声信号での飽和レベルの差について

単一のスペクトルを持つ低周波のサイン波信号はトランスを飽和させやすいのに対し、
実際の音楽再生時の音声信号は全体的な信号レベルに対して低域の成分は多くないため、
サイン波では飽和してしまう信号レベルであっても、音声信号なら飽和が起こらない、もしくは
聴感上の問題が起こらないことが多い。
音声卓の出力にST-71を接続し、ロー出しハイ受けの状態で実験したところ
200Hzのサイン波で飽和しはじめたレベルと同様のピークレベルの音声信号なら歪を感じさせ
ない程度で使用できるようだ。使用したCDソースは収録レベルが高く、低域の成分が多いもの
を使用したが、このレベルを超えるとキックドラムの音が歪んでおかしな音になっていることが
聴き取れた。よって200Hzでの飽和レベルと音楽ソースの飽和レベルが同程度だという目安だ
と判断した。
なお、この時の音楽ソースの信号レベルはキックドラムでは0VU=+4dBuのVUメーターが振りきれる
ほどの大きさだった。サイン波では0VUで40Hzのサイン波が飽和しはじめるくらいだった。






■過負荷時の周波数特性

トランスに規定値以上の重い負荷をかけた場合、全体的なレベルは落ちるものの低域の特性
が良くなる現象について感覚的には知っていたが、改めて測ってみることにした。

送り出しインピーダンス(オシレータの出力インピーダンス)を公称値の600Ωの場合と、40Ωという
低い値での2パターンで、負荷を重くしていきながら特性を取った。


オシレータ出力200mV

送り出し600Ω時の0dBr値
187mV @無負荷
92mV @600Ω負荷
34mV @150Ω負荷
13mV @50Ω負荷

送り出し40Ω時の0dBr値
197mV @無負荷
158mV @600Ω負荷
99mV @150Ω負荷
50mV @50Ω負荷



負荷が重くなるほど高域レベルは低下していくのに対し、低域はむしろ良好になっていく現象が
確認できた。
送り出しインピーダンスが低い場合、低域は負荷にかかわらず良好な特性だが、
負荷が重い場合の高域レベルの低下はより顕著になることがわかった。



とりあえずこのへんで。



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