LME49600 + 入力トランスで作る超高出力・低残留ノイズアンプ (構想中)



Y氏の要望により共同で設計しようとしている高出力アンプ

製作のコンセプトは

「高出力・低ノイズ」。後述のヘッドホンを定格駆動できることが理想
ipodなどに接続して使用する高出力なヘッドホンアンプを目指す。


駆動するヘッドホンはオーテクのATH-PRO700
インピーダンス36Ω、3500mWぶち込めるのが魅力。
(両ch合わせて3.5Wなので片chで必要な電圧は 約5.6Vrms)
実際、最大出力を得られるヘッドホンアンプは殆ど存在しないみたいなので達成することを目標とする。
http://www.audio-technica.co.jp/proaudio/headphones/ath_pro700/ath_pro700.html


また、業界標準ヘッドホン SONY MDR-CD900ST
インピーダンス63Ω、1000mW (必要な電圧 4Vrms)
の使用も想定する。
http://www.sonymusic.co.jp/Music/MoreInfo/MDR-CD900ST/

これら2つのモデルを代表とし、その他一般的なスペックのヘッドホンにも対応する。



まず、出力段に使用するICはナショナルセミコンダクター社のLME49600に決定する。
理由は、まさに高出力ヘッドホン用デバイスであること。これに尽きる。
しかも秋月電子で手軽に入手できるところがうれしい。

http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-02331/


■大電流ローノイズ・オーディオバッファIC
■高性能の低歪みHiFiオーディオ・ヘッドフォン・バッファです。
■THD+N:0.00003%
■スルーレート:2000V/μs
■出力電流:250mA
■電源電圧:±2.25V〜±18V
■プロ用オーディオアプリケーション向け
■パッケージ:TS5B(5ピン)面実装タイプです。


メインとなる部分はこのICがほぼ全部やってくれるけれども、これ以外に検討しないといけない部分が
電源回路とオーディオの初段回路となる。


まずは初段回路について。
このICは電流増幅のみを行い、電圧ゲインは0dBなので、ipodの出力ををのまま接続したのでは音量が大きくならず、まったくアンプとして効果がないことになる。

例としてipod (nano 3G)のヘッドホン出力について調査してみる。

 正弦波ボリュームMAX状態で
 クリップ電圧  (無負荷) 2.3Vp-p
 クリップ電圧(32Ω負荷) 1.7Vp-p
 上記から計算した出力インピーダンス:約11.3Ω


ということで、電圧ゲインは5倍くらいは欲しいかなといったところ。(大体ね)

初段にオペアンプを使用してゲインを稼ぐというのが一般的な考え方ですが、
ここで今回はトランスを使用することを提案してみます。


- インプットトランスを使用することのメリット! -

■ローノイズであること。
オペアンプは高性能なものであっても多少の残留ノイズが発生する。ヘッドホンでは微小なノイズでも耳障りに聞えてしまうので、極力低ノイズ化を図りたい。トランスならば基本的にノイズが増加することがない。

■電力を活用すること。
普通、ipodに接続するようなイヤホンは16Ωや32Ωといった低インピーダンスのものであり、これらを接続して使用することを前提に機器が設計されている。一般的に行われているような手法ですが、このヘッドホン出力を入力インピーダンス10KΩなどの普通のライン出力に接続すると電圧伝送となる。この場合ノイズの影響を受けやすくなる。(プラグを触るとジーというノイズが載るとか)
トランスを使用して32Ω程度で信号を受けることでノイズを拾いにくくし、エネルギー変換することでノイズの増加をすることなく電圧ゲインを稼ぐことができる。オペアンプは電圧増幅なのでインピーダンスが高くなっても良い。

■イヤホンと近い負荷とすることで動作を安定させる。
近年のポータブル機器はデジタルアンプを採用しているものが多くなっている。イヤホンを接続したときに理想的な動作をするようにな構造になっているため、ハイインピーダンスで受けた場合、フィルタが正しく動作せず高域ノイズをばら撒いてしまう可能性がある。

■帯域制限を行う。
前述のデジタルアンプや、デジタル回路を搭載した機器などでは信号に高周波ノイズを伴っている場合が多々ある。
なるべく可聴外の信号は伝送しないほうが混変調歪の発生を抑えることに繋がり、クリアな信号出力に貢献する。

■DCオフセットの除去
機器によっては微小なDCオフセットを含んでいるものがある。これは接続ケーブルでのガリを発生させるため好ましくない。トランスによってカットすることで安定した信号伝送が可能となる。

逆にデメリットはパーツの体積と重さ。これはトランスの設計をうまく行うことで十分なサイズにまで小型化できるようにしたい。


求められるトランスのスペック
■周波数帯域 20Hz(できればそれ以下も!) 〜 20KHz (100KHz以上はなるべく伝送しない)
■使用電圧 1次側で最大2V程度
■巻線比 最低1: 5くらい(電圧比)
インピーダンスは1次側は32Ω程度。各種ヘッドホン端子に対応するなら64Ω程度が無難。
設計値より機器の送出インピーダンスが高くなるとよくない。
2次側は巻線比(必要なゲイン)から求め5倍とすると800Ω(32Ω時)、1600Ω(64Ω時)
ipodは特に出力電力が大きい部類なので、様々な機器に対応することを考えるとむしろ巻線比1:20くらいあっても良いかも。よって25KΩ(1次側64Ω)くらいでもいいかも。2次側はボリュームを経てオペアンプ入力なので50KΩくらいまで高くなっても問題ないが、あまり高くなるとトランスの周波数特性が悪化するので要検討だ。



■ここで 最大許容入力3500mW(1750mW+1750mW)について疑問があったので調べておく。

ピークレベル=クリップレベル=0dBFsと考えたときに
一般的なプログラムソース、要はCDとかのRMSレベルがどのくらいかというと

近年の音圧高めのソースでRMS値は0dBFsに対して-10dBくらい
J-POPなどは大体このくらい
これに対して音圧低めの曲(例: さだまさし)は-16dBくらいとか。
レンジが広いから平均とるとこのくらいだと思う。
では初段のゲインを改めて考えていくつに設定しようか。

■Peak/RMSレベルの例 [動画]

赤いラインがpeak値。一般的なCDソースであれば0dBFsまでいくとして
下の青いラインがRMS値。

 ライズ/フォールタイム (msec/20dB)
 RMS
 ライズ300mS フォール300mS

 Peak
 ライズ0mS フォール 1000mS

 ライズというのはメータが上るスピードで、フォールは下がるスピード。
 20dB動くのに何mSかかりますということ。

 Peakはピークを鋭く表示し、RMSは平均を表示している。




■あらためて計算してみる

ヘッドホンでフルパワーで出すのが目的だとして
インピーダンス36Ωで3500mW (chあたり1750mW)
そしたら P=V^2/Rから V=SQR(PR)
V=SQR(1.750*36)
V=7.93[Vrms] の電圧が必要。

一般的な音楽ソースが波形ピーク値に対してRMS値は10dB〜16dB低い
すなわち、さらに3.16倍から6.31倍の電圧が必要ってことになる。

だとすると3500mWの出力を達成するためには正負それぞれ

7.93*3.16=25.06[V] (RMS高い曲の例)
7.93*6.31=50.04[V] (RMS低い曲の例)

の電圧が必要ってことになるのではないか。


ちなみに LME49600の最大スイングは

IOUT = -150mA VEE +3.5

ってことで3.5Vくらいは余裕でロスる可能性がある。

だから実際にはもっと高電圧が必要ということになる。というか実現不能!?


★逆に18Vだったらどれだけ出力を出せるのか?

LME49600に±18Vを供給したとして
とりあえず正の電圧だけ考えて、仮に3.5Vロスったとしてフルスイングで14.5Vだ
ここで音楽ソースのピーク対RMSの計算をして

14.5/3.16=4.03[V] (RMS高い曲の例)
14.5/6.31=2.3[V]  (RMS低い曲の例)

じゃあそれぞれで電力計算だ。インピーダンスは36Ωで。

P=V^2/Rより

P=4.03^2/36
P=450[mW] (RMS高い曲の例)

P=2.3^2/36
P=19[mW]  (RMS低い曲の例)

RMSで考えるとずいぶんと出力が小さくなってしまうようだ。




今日はここまで。


メニューへもどる

inserted by FC2 system