ipod+ヘッドホン使用時にインピーダンスマッチングがとれなくて音が小さい問題を回避する
ヘッドホンマッチングトランスの製作




ipodをはじめとしたポータブル機器って、基本インナーイヤホン向けの設計じゃないですか。
なので16〜32Ω程度の低インピーダンスの負荷を想定して作っています。(低電圧動作時代だし)
一方、ヘッドホンはインピーダンスが50Ω以上のものや、300Ωなんてものもあります。
この場合、十分に電力が取り出せないため大きな音が出なかったり、制動が働きすぎるために
低音がスカスカで豊かな音にならなかったりします。また無理に音量を稼ごうとする挙句、アンプで
音が歪んでしまうことも。
ポータブルのヘッドホンアンプを使ってもいいんですが、また別に電源が必要だったりして面倒です。
トランスを用いたマッチング方式なら電源不要でヘッドホンアンプと同等(それ以上?)の効果が得られる
はずです!!
ということで、ヘッドホンアンプならぬヘッドホントランスを作ることにします。




■ここから設計思想とか、だらだと。

ipodとか、比較的小出力のヘッドホン端子にインナーイヤーではないヘッドホンを使用した場合、
音量を最大にしても足りなかったり、歪っぽくなったりする原因はipodの最大出力電圧が小さい
ことも原因であるが、インピーダンスのミスマッチングにより有効に電力を取り出せていないこと
も大きな原因である。
また、一般的な大きな機器のヘッドホン端子は電流駆動のため比較的送出インピーダンスが高い
のに対し、インナーイヤホンを前提としたポータブル機器は送出インピーダンスが低く、電圧駆動になる
傾向がある。→f特が悪くなったり、音が硬くなる原因となる。


インナーイヤー型イヤホンのインピーダンスはipod付属のもので32オーム。
オーディオテクニカあたりから出てる比較的大音量が出そうなものは16オームだったりする。
ipodを例にとると出力インピーダンスは約11オーム。これを考えると最低負荷は16オームを想定している
と考えていいと思われる。

インナーイヤーレシーバーが16オームや32オームのインピーダンスであるのに対し、ヘッドホンの場合は
ソニー、オーディオテクニカ、ボーズ、AKG、ゼンハイザーあたりの主要メーカのスペックを調べると、
大体32Ω〜64Ωくらいのものが多い。また、ゼンハイザーのHD800やHD600、HD580、HD650あたりは300Ωと、特に
ハイインピーダンスであることで有名。これはユーザ泣かせの仕様で、音量が小さくて困ることが多い。
beyerdynamic T90あたりもインピーダンス250Ωと高めの設定となっている。

特にポータブルの場合、高出力なipodならなんとか実用になるかもしれないが、その他のプレーヤでは実用に
至らないことさえある。

ここで、各インピーダンスの機器をipodに接続したことを想定して、得られる出力を計算してみる。

ipod nanoの実測値から、最大電圧は1Vrms、出力インピーダンスは11Ωとして計算した。
数値は片chあたりの電力とする。計算方法は割愛させてもらいます。


■インピーダンス16Ωの場合  最大出力22mW
これが一般的なインナーイヤー型のインピーダンスで、ipodから得られる最大電力と考えていいだろう。

■インピーダンス32Ωの場合 最大出力17.2mW
ipod付属のイヤホンや、低インピーダンスの部類のヘッドホン。この辺までは許せるか??

■インピーダンス64Ωの場合 最大出力11.3mW
MDR-CD900STとかはこのインピーダンス。16Ωのものに比べて半分の出力しか出ない。

■インピーダンス300Ωの場合 最大出力3.08mW
SENNHEISER HD600クラスはさすがに厳しいのが数値からもわかるだろう。




で、どうしようかといったときに外付けポータブルアンプを使うという手もあるんだけれど、別に電池もいるし
めんどくさい。
そこでアウトプットトランスをつけることでマッチングを取れば、いずれのヘッドホンでも16Ωの時と同じ最大
出力の22mWを得られるのではないか!! というワケです。

難しいことはありません。16Ω:64Ω もしくは 16Ω:300Ωの、周波数特性が良好なトランスを用意するだけ。
さっそく巻いてみましょう!!

ちなみに、こうやってマッチングを取ることによって音質も良好になることが期待できます。
普通、スピーカの場合はダンピングファクターを高くとることが良いとされ、スピーカ側からみたアンプのインピー
ダンスを低くするように設計しますが、ヘッドホンの場合はわざと直列抵抗を入れてアンプ側のインピーダンス
を高くし、電流駆動することが良いとする考えもあり、こういった設計をされているヘッドホンアンプも存在します。
ダンピングファクタが高い(=アンプの出力インピーダンスが低い)場合は音が硬くなる傾向にあり、ipodに
そのままヘッドホンを接続した場合もこうなります。
トランスでマッチングをとることで、ヘッドホンからみたアンプ側のインピーダンスのマッチングが取れることで
音質が豊かになり、なおかつ抵抗を入れた時のように電力を無駄にすることもありません。



おっと、ついいつものノリで製作を頼んでしまいました。
今回はパーマロイコアでポータブルも考えて小さめのコアにしました。
あんまり出力は出せないですがコアが小さいわりには低域がしっかり出る設計です。
まあ経験上、十分うるさい位の音圧は出せるはず、というかトランスが飽和する段階では
うるさくて耳が歪みを検知できないくらいなので、ちょうどいいはず。
ちなみに1次側はインナーイヤー型イヤホンと同等の16オーム。2次側は2回路で
並列にすると63オームでMDR-CD900STあたりとマッチング。直列にするとゼンハイザーHD600
あたりにマッチングできるようにしています。
ちなみに今回はコアにパーマロイを使用していることと、過負荷にならない設計にしているので、
個々のインピーダンスの多少の変動は問題になりません。
気になる価格は@5K円くらい…




染谷電子 型番A28-185 (16Ω: 63Ω×2) 特注品
※リード線引き出しが上側からになっていますが、現在は下側になっています。


※クリックして拡大





さっそく作りましたよ。内部構造はテラタワー!
※配線取り回しの都合上、現在はリード線を下出しに変更しています。


3.5φのステレオジャックはINPUTで、6.3φのがヘッドホン出力。
スイッチはインピーダンス切り替え用でトランスの2次側の直並列を切り替えます。

※使用ケースはタカチ MX4-7-9BBです。


配線図
各GNDはシャーシ(トランス筐体)に落とす。ケースGNDには落とさなくても平気そう




■とりあえず使った感想

ipod nano 4G + SONY MDR-CD900ST
まずは手元のヘッドホンで試聴。
63Ωと、さほどインピーダンスは高くないので大差ないかと思いきやかなりの変化が。
ipod購入当初、どうも痛々しい音で低域に品が無くて聴いてて疲れると思っていたのですが、
本機を通すことで低域の表現が豊かになり、イコライザーを掛けているわけではないのに
低音がしっかりと聴こえてくるようになりました。これはどうやらipodの出力インピーダンスと
ヘッドホンのインピーダンスが違いすぎることにより制動が掛かりすぎていたのが原因のようです。
(ちなみにipodのEQかけると即、歪んでしまう)
ipod直の場合は芯のない音がするので聴いてて疲れるけど、アダプタを介したものは定位が落ち着く。
また、ipodに直接ヘッドホンを挿した場合は音量最大近辺に近づくと音が歪っぽくなりましたが
このアダプターを通すことで若干出力が上がり、大音量派でもボリュームに余裕ができるように
なりました。



■ゼンハイザー HD580でテスト



「ポータブルプレーヤと相性悪いからねー」という話をしていたS様のご協力のもと
300Ωという最大級のインピーダンスをもつヘッドホン HD580と、出力が小さいチープなポータブルプレーヤ(失礼)
にてテストを行わせてもらいました。しかもS様は普段オーケストラを聴くということで普通にヘッドホンを接続した
状態ではボリュームMAXでも音量が足りません。
そこで本機を試してもらったところ、音量不足は完ペキに改善されました。しかもS様いわく「音が良くなった」
という、大変ありがたいお言葉を頂戴しました。これは昇圧&マッチングの成果だといえるでしょう。




※2011.5追記
ひさびさに比較試聴をやりました。
前から感じてはいたのですが、このトランスを通した時の低音の豊かさは是非一度聞いてみてもらいたいと思います。
MDR-CD900STでチェックしましたが、この程度の比較的低いインピーダンスのものでも音量の余裕が得られ、音質的な効果も感じられます。
低音については別ページの単巻バージョンよりこちらのほうがあるようです。パーマロイコアの特徴なんでしょうか。


これから色々と試していきますよー


※2012.6.17追記


そういえば周波数特性をとってなかったので測定しました。



■切り替えスイッチ63Ω時、63Ω負荷 信号源インピーダンス2Ω、発振器出力0dBu(0.775V)


20Hz-0.18dB、20KHz-0.24dBと申し分無いスペック。
10Hzでも-1.92dB、120KHzで-5.1dBでした。
端子電圧は1.291Vと、約1.67倍の電圧レベルを得ることができました。電力比で2.8倍です。
63Ωのヘッドホン使用時でも音量増大効果がバッチリです。



■切り替えスイッチ252Ω時、300Ω負荷

こちらも63Ω時とほぼ変わらない、良好な周波数特性が得られています。
端子電圧は2.661Vですので、ヘッドホンを直接接続した時の3.43倍の電圧レベルが得られています。
電力比では12倍近くとなり、ハイインピーダンスのヘッドホンでも十分にドライブできることが確認できました。




今日はここまで。

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