レコードプレーヤをオーディオI/Fのマイク入力に接続するための
MC昇圧トランス/MM降圧トランスの製作


最終更新2011.1

 〜レコードの再生出力を直接PCに取り込みソフトウェアでRIAAイコライズ。
高音質でデジタル化する方法の実用化


※普通のMCトランスはこちら
MCカートリッジ用昇圧トランスの製作(製作中)



特製 バランスマイク入力用MC昇圧トランス



出力はオーディオI/Fやミキサーのマイク入力に接続するように
XLRコネクタでバランス仕様にしてある。
アース配線は一次側のGNDとアースターミナルをシャーシGNDに
落としている。
※使用ケース タカチ MXA4-7-8S



使用環境
プレーヤ KENWOOD KP-9010に取り付けたカートリッジDL-103の出力を
自作したトランスボックスを経てオーディオインターフェイス digidesign Mbox2 Proの
マイク入力に接続している。



アナログレコードをPCに取り込んでWAV化する場合、レコードプレーヤの出力をRIAAフォノイコライザーに
接続し、その後にUSBオーディオインターフェイス等に接続して録音する方法が一般的ですが、
フォノイコライザー単体で高性能なものは高価であり、なおかつMCカートリッジを使用する場合はさらに
MC昇圧トランスが必要となりシステムがとても複雑化することになります。

近年はキャノンコネクタの付いたバランス入力タイプのマイク入力がついたオーディオインターフェイスが
安価で購入できるようになりましたが、これらは増幅率、残留ノイズ、周波数特性など、どれも優秀なものが
多く存在します。
これはマイクアンプとして優秀なインストルメンテーションアンプICが開発されたからといえるでしょう。

そこで、中途半端な民生用のフォノアンプを買い求める位なら、特性の良いオーディオインターフェイスにて
カートリッジ出力をそのままキャプチャし、RIAAイコライザについてはソフトウェア処理にて行うほうが
良い結果が得られるだろうという考えに至りました。



■ソフトウェアRIAA(デジタルフォノイコライザー)方式について





さて、昇圧トランスやフォノアンプを使用せずにマイクアンプ経由で音声を取り込む場合、レベルや
インピーダンスについて解決すべき問題があります。
MCカートリッジの場合はマイクアンプのゲインでは若干不足するため、できるならば入力する前に若干
レベルを上げたいところ。ここに能動素子を入れてしまってはSN比の点で不利なためトランスを用いて
昇圧するアダプタを自作することにします。
通常、MCカートリッジの出力インピーダンスは10〜40Ω程度。対して一般的なマイクプリの入力インピー
ダンスは3K〜10KΩ程度。これをもとにトランスの1次側は一般的なMC昇圧トランスの値と同じで多くの
カートリッジに対応した40Ωという値に設定。2次側はマイクプリのインピーダンスにあわせて3Kオームとしました。
ちなみに一般的に販売されているMC昇圧トランスでは2次側は47KΩで電圧ゲインは20dBくらいありますが、
ここまでの変成比は不要であることと、これをマイクプリに接続すると過負荷となるため、使用することはできません。
なお今回の昇圧トランスでは入力、出力ともバランス伝送にすることが実現できます。巻線の方法を
バイファイラ巻きにするなどして平衡度を高くし、外来ノイズの影響を極力少なくすることが可能になりそうです。
※実験したところ、入力は既存のプレーヤ・コードを使用する場合、カートリッジ出力の-をGNDに接地するほうがノイズ面で有利だった。


また、今回はMC用を製作するとともに、より一般的に普及しているMM型カートリッジ用のトランスも製作してみます。
MM型の場合はMCに比べると出力電圧が10倍ほどあるという反面、推奨負荷インピーダンスが47KΩと
だいぶ高くなっています。これではマイクプリに直接接続することはできませんので、今度はインピーダンスを
3KΩまで下げるための降圧トランスを製作することになります。




■トランス設計概要



・1次側の信号レベルは基準値に対して最大+20dB程度となる(音楽ソースでの実測)
・ただし、RIAA補正されているので、20Hzでは-20dB、20KHzでは+20dBくらい のレベル差が
 あるため、低域のコア歪については余裕がある。
・1次、2次側とも平衡伝送となり、ノイズを極力減らしたいので、巻線については可能な限り
 平衡にしたい。(コアや外来ノイズなどに対して)
・f特は20Hz〜40KHz程度を確保する。
・パーマロイケース、リード線直出し、コア接地用のリード線も出す。

※MM/VM用ならSANSUI(サンスイ)のインプットトランスST-15 変成比 50KΩ:1KΩあたりが
代用できなくもなさそうだが、変圧比が少ないためにちょっとゲイン不足が心配である。
MC用は近似値のものが無いが、試すとするなら使うならST-92 変成比 1.3KΩ:150Ω×2 (二次側は並列で150Ωとして使う)
くらいかと思われる。
これらの場合、パーマロイケースがついていないので、外来ノイズ対策が必要かもしれない。
アルミやプラではなく、鉄のケースに収めればいくらか違うとは思われる。
まあ、特注してしまった今となっては断然こっちが適正値なのは言うまでもないですが…。




■製作してもらった特注トランス


MC-66




MC-67

※画像をクリックして拡大



■内部構造







■MC-66 MC用トランス周波数特性


※オーディオインターフェイスMbox2Proのライン出力に約60dBのPAD (出力インピーダンス約20Ω)
を接続し、トランスを経由した後にマイク入力に接続して測定。
MBox自体の特性を考慮すると全域で±0.5dBくらいは確保できているようで、素晴らしい特性である。
但し、実際はRIAAカーブのため20〜20KHzの間で約100倍ものレベル差のある信号が通過することや
カートリッジの周波数ごとの出力インピーダンスも関係するため、必ずしもこの特性が得られるわけではない。
よって最終的には実際にカートリッジを接続し、テストレコードを再生した時の特性を確認する必要がある。



■DL-103+MCトランス+ソフトウェアRIAA周波数特性


テストレコードの周波数スイープを再生してスペアナでピーク記録したもの。
カートリッジを接続したことにより、10KHz以上で若干のレベル上昇がみられた。
100Hz以下の膨らみはレコード再生におけるランブルノイズか何かの原因で
うまく計測できていない。
→デジタル機器だとこういう信号の記録が難しいかも。計測方法が要検討である。




■DL-301II+MCトランス+ソフトウェアRIAA周波数特性



DL-301IIでは高域がフラットに落ち着いた。
カートリッジによって特性に違いが出るということが確認できたため、
このあたりの個体差が気になるようであれば都度テストレコードで確認し、
EQで補正する必要がありそうだ。




■DL103スイープ信号の波形 (RMS表示)

上がLchで20〜20KHzの周波数スイープ信号が記録され、下がRchで無音となっているが、
実際はランブルノイズやスクラッチノイズが出力されている。
こちらのRMS波形では低域の盛り上がりがなくフラットに見ることができている。
高域の上昇はカートリッジ(もしくはMCトランスとの組み合わせ)による特有のものなので
気になるようであればこの波形をみながらプラグインEQなどで補正するとフラットにできる。
実際はこの程度の偏差は問題なく、むしろ曲ごとに聴感で判断してEQで味付けしていく位の
勢いでもいいと思う。



■DL103の高域上昇をEQで補正してみた例


大雑把だけど高域の上昇分をEQで抑えてフラットに近づけてみた例







■MC-67 MM/VM用トランス周波数特性


次にMM/VM用のトランスを計測してみた。
MMの場合は推奨負荷インピーダンスは指定されているものの、
個々のカートリッジの出力インピーダンスは公表されていない。
テキトーな情報によると、「MMカートリッジの出力インピーダンスは数KΩ程度」らしい。
ということで、Mboxの出力に40dBのPADを入れた後、出力インピーダンスを
切り替えながら周波数特性を計測してみた。



※4.7KΩの場合(数KΩというとこのくらい?)

20Hzと20KHzそれぞれで-0.5dBというすばらしい特性だ。
これなら優秀な特性で問題ない。




※23KΩの場合(カートリッジの出力インピーダンスが高い場合)

20Hzと20KHzで-3dBという値は、一応「周波数特性20〜20KHz」を謳える
まあ普通の性能だ。
実際、MMカートリッジの出力インピーダンスがここまであるのかは謎。




※47KΩの場合(実際のカートリッジではありえないと考えられる)

念のためマッチングをとった状態でも計測してみた。
47KΩという高いインピーダンスの場合、普通にプレーヤとフォノアンプを
接続する場合でもコードの線間容量の影響して高域が落ちたりする。
トランス的にも細い線が多く巻かれるため静電容量が高くなり、高域的に
不利になる。
やはり、「カートリッジの出力インピーダンスを上回る余裕のあるインピーダンスで受ける」
という概念は間違ってないようだ。


あとはカートリッジを接続して測定してみないと実際の特性はわからない。
なお一般的に、MM型の場合はハイインピーダンスのため接続機器の影響を受けやすくなっている。




■MMカートリッジ+MMトランス+ソフトウェアRIAA周波数特性

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■音声取り込み後の処理について

ソフトウェア処理でRIAAイコライジングを行えるツールですが、VSTiプラグインであるvacuumsoundの
RIAA-phono equalizationがまさに今回の目的に合致するものとなります。ちなみにこのプラグインは
逆RIAAカーブも再現可能で、フォノイコライザーのチェックにも活用できる便利なツールです。


VSTiプラグイン vacuumsound RIAA - phono equalization
写真をクリックして拡大



他には、オーディオ編集ソフトウェアAudacity(どっかに日本語パッチもあったはず)
のイコライゼーション機能の中にはRIAA方式のみならずAES,NAB,Columbia,RCA,Deccaなど
の方式のカーブもプリセットされていますので、RIAA制定前のレコードやSP盤の板起こし
にも活用できそうです。
なお、RIAA偏差に拘らず、アーカイブやリマスタリングという概念で積極的に多バンドEQを使用して
イコライジングを行うのも良いでしょう。実際、板起こしをする際にはより聴きやすくするためにこういった
マスタリング処理を行ったほうが良い結果が得られる傾向にあるようです。



Audacity イコライゼーション
写真をクリックして拡大


ソフトウェアにてRIAA処理を行うことには次のようなメリットがあります。
ひとつは、デジタル処理のため、LR各チャンネルでの諸特性が完全に一致すること。CRパーツを
使用したアナログ回路では、パーツの誤差もあるために少なからず左右での特性が異なってしまいます。
これによりLR間で周波数特性や位相の特性が異なってしまうことにより正しいステレオバランスが得られなくなる
恐れがあります。デジタル処理であればこのような誤差は起こりません。
次に、イコライザ処理前のデータを残すことのメリットがあります。性能の限られたイコライザを使用してアーカイブ
した場合、後々になって新しい技術が生まれた後に再加工を行う場合に情報の欠落によって音質、
再現性の面で不利になります。フォノイコライザを通さずにカートリッジの出力をそのまま記録しておけば、
後処理での自由度が幅広くなります。
ちなみにRIAAの場合、低域と高域の間では約40dBのレベル差があるためにダイナミックレンジの点で懸念
されますが、現在は量子化ビット数24bitでの録音も容易になったため、十分な品質で記録が可能であると
いえるでしょう。

そしてもう一つ。
近年はデジタル処理にてレコードのスクラッチノイズやプチノイズを除去することが出来るようになりましたが、
通常の場合は盤面で発生したノイズもRIAAカーブを通って波形が崩れた状態になった後にノイズ除去プロセスを
通ることになります。RIAAカーブを通す前にノイズ処理を行えば、より効果的に除去が可能になることも考えられます。


■その他のRIAAイコライジングソフト[参考情報]


S&K Audio SSC-01 (リアルタイム処理ソフトウェア)
http://www.skaudio.jp/index.htm


PureDigital SoundBox デジタルRIAAイコライザ (シェアウェア)
http://www.megaegg.ne.jp/~pure-digital/




■RIAAフィルタ前後でのノイズ波形比較


上:RIAAイコライズ後 下:RIAAイコライズ前 (クリックで拡大)



RIAAイコライズ前のほうがノイズ的にはリニアなので目視でもノイズ部分が判りやすい。
鉛筆ツールを使って手作業でノイズを消していく作業もやりやすい。


拡大波形(クリックで拡大)


RIAAイコライズ後は高域が落ちるため波形の鋭い部分が無くなり
ノイズ部分が判別しにくくなっている。





■ノイズ除去ソフトを使用してみた例



RIAAフィルタをかけずに録音した素材にノイズ除去プラグインをかけてみた。
使用したのはSONYのClick and Crackle Removalというソフト。
DirectXのプラグインのためDAWにはSONARを使用した。
通常のようにRIAAフィルタをかけた後にプラグインをかけるとクラックルノイズの
高域成分の残留が残るが、RIAAの前に入れることでノイズが目立たなくなる。
おそらくインパルス状のノイズの波形がRIAAフィルタによって崩れる前に処置していることと
処置した後の残留成分がRIAAフィルタによって高域が下げられることで目立たなっているの
だと思われる。







※参考データ
代表的なカートリッジの出力電圧・インピーダンス


■MC型カートリッジ

DENON DL-103
 出力電圧:0.3mV
 再生周波数:20Hz〜45kHz
 電気インピーダンス:40Ω

DENON DL-301U
 出力電圧:0.4mV
 再生周波数:20Hz〜60kHz
 電気インピーダンス:33Ω

audio-technica AT33PTG
 出力電圧:0.5mV
 再生周波数帯域:15〜50,000Hz
 インピーダンス:17Ω

audio-technica AT33EV
 出力電圧:0.3mV(1kHz、3.54cm/sec.)
 再生周波数範囲:15〜50,000Hz
 コイルインピーダンス:10Ω(1kHz)
 直流抵抗:10Ω
 負荷抵抗:100Ω以上(ヘッドアンプ接続時)
 コイルインダクタンス 22μH(1kHz)

ortofon MC*30W
 出力電圧 0.5mV(1kHz 5cm/sec)
 周波数特性 20Hz〜40kHz(-3dB)
 内部インピーダンス 6Ω
 推奨負荷インピーダンス 10〜200Ω



■MM型(VM型)カートリッジ

audio-technica AT15Ea/G
 出力電圧:4.0mV
 再生周波数帯域:10〜20,000Hz

SHURE MM44-7
 出力電圧 9.5mV
 周波数特性 20〜20,000Hz

SHURE M97-XE
 出力電圧 4.0mV
 周波数特性 20〜22,000Hz


■MC昇圧トランス

DENON AU-300LC
 3〜40Ωのカートリッジに対応
 昇圧比 1:10
 1次、2次インピーダンス 40Ω:4KΩ


DENON AU-S1
 3〜40Ωのカートリッジに対応
 昇圧比 1:13
 負荷インピーダンス 47KΩ


audio-technica AT2000T
 対応カートリッジ 2〜17Ω
 推奨負荷インピーダンス 47kΩ








※雑記

これらのシステムを用いてアナログ盤の"Simon & Garfunkel Concert in Central Park"を録音して
ノイズ処理を行いレコード2枚組の計4面をクロスフェードかけてギャップ0でトラック振ってCDに焼いたものを
iTunesに取り込もうとしたらまさかのCD版として認識し、曲名がインポートされてしまうという謎現象が起きました。
トラック時間や収録レベル等々が一致している事はありえないにもかかわらず、見事アルバム名を当ててしまった
iTunesのCDDB "Gracenote Media Database"の優秀さに驚かされましたとさ。













アナログ盤のアーカイブをするにあたってのテクニックとか覚書


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